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2007年2月 2日 (金)

元気ですか?

そのひとは、私がHPを作って、まだまもないころ、ちょくちょくサイトに遊びに来てくれたファンの一人だった。
幸か不幸か、知名度が低い上に、どちらかというとアナログな読者が多いらしく、ネット上にホームページを開設しても、訪問してくれるファンは本当に少なかったと思う。だからかもしれないが、インターネットで知り合う見知らぬ人たちに対して、私はかなり無防備だった。サイトの掲示板に熱心な書き込みをしてくれるファンのひとと、個人的なメールのやりとりもした。幸い、私のサイトにきてくれる人たちは、本当に私の著作をよく読み込んでくれて、真面目な感想を寄せてくれる方々ばかりだったので、その交流は、私にとっても、とても心地よいものだった。
そのひとー以後、《彼》と呼ぶーも、そんな真摯なファンの一人だ。

彼は関西方面に住む(当時)25歳の青年で、いままでにただ一度だけ催した公式サイトのオフ会に、わざわざ上京してまで参加してくれた。慣れぬ東京で迷ったりしては気の毒だと思い、私は自分の携帯番号とアドレスを教えたが、それに対して、「ぼくを信頼してくださったのは嬉しいです。でも、見ず知らずの人間に、プライベートな携帯番号やアドレスを教えるなんてダメですよ!」と、まるで分別くさい年上の男性のような口調で、怒られてしまった。実際に会ったときの彼の印象は、10歳以上も年下とは思えぬほど落ち着き払った、だが、よい意味で純粋そのものな青年だった。
そしてそのオフ会後、彼は私にーというか、私の家族に対してかなーいろいろな贈り物をしてくれるようになった。日本各地の美味いもの。ラーメン、うどん、そば・・・・。子供が歓びそうなポケモンの縫いぐるみ。ムーミンのお茶碗、お皿、カップ・・・・。彼は郵便局に勤務していて、贈り物は、すべて郵便局が主催している「うまいもの便」とかではあったけれど、決して安価なものではなかった。それを、「ノルマがあるもので。ご迷惑じゃなかったら受け取ってください」と、まるで言い訳みたいに、彼は言い、送り続けてくれた。
困惑しつつも、「ファンて、そういうもんだよ」「黙って、もらっときゃいいのよ」と言ってくれる編集さんの言葉を、当時半ば信じつつも、私はやはり黙っていられず、クリスマス、バレンタイン、バースデー、といったアニバーサリーの折には、なるべくお返しするように努めた。たいしたものではなかったけれど。
彼が、私に対して、物語の作者に対する敬意以上の感情を抱いていたとは、夢にも思わない。思い上がっても、いない。そのころ既に私は三十半ばを過ぎ、子供もいた。彼は、二十代の青年だ。

そんな彼から、ある日、病気のため、長期療養が必要になり、休職して入院することになった、という連絡があった。そして、いつもなにか差し入れを贈ってくれる際の、押しつけがましくない口調で、「新刊をチェックできなくなるのがつらいです。お暇なとき、なにか送ってください」と。私は、もとより、時間の許す限り、彼の好みそうな新刊本を送るよう努めた。それとともに、偽善にみちた気休めのメールも。なにも知らず。ただ、ファンは、作者からのメールを歓んでくれるものだと信じ込んで。

いまとなっては最後となった、彼からの、「実は、癌なんです、という笑っちゃうようなオチなんです」というメールに、私は返信できなかった。気休めの言葉の一言も、思い浮かばなかった。それ以後、もちろん、彼から「うまいもの便」が送られてくることはない。私は怖くて、連絡先を知っているにもかかわらず、自分からは連絡できなかった。もし亡くなっているなら、遺族の方に、一言くらいお悔やみとお礼を言ってもいいだろうに。それが、できなかった。怖かったのだ。怖いし、現実を知りたくもないのだ。

だって、もしかしたら彼は、しばしの闘病後完治して元気になり、そして楽しい恋をしたかもしれないじゃないか。現実に楽しい恋をすれば、当然フィクションとは縁遠くなる。現実の楽しさ故に小説からは遠ざかり、やがて幸せな結婚をしたかもしれない。いまごろは、美人の奥さんと可愛い子供たちに囲まれて、忙しくも楽しく幸せな日々を送っているのかもしれない。若い頃に親しんだ作家の本も、(邪魔になるという理由で)いまは書棚になく、本を、読みたい気持ちはあっても、その時間がないことを、ほろ苦く悔恨しているかもしれない。
そして私は、そんな楽しい想像を、想像のままにとどめておきたいから、だからやっぱり、自分から連絡することはできないのだ。ごめんなさい。私は、ずる賢くて卑怯な人間です。

彼本人がこの記事を読んで連絡してくれることが最上の望み。
そして、「元気ですよ」と、お便りをくれることが。
でも、たとえそれが無理でも、彼のご家族、もしくは親しい友人の方がたまたまここをご覧になってくださることを期待して、私はこの記事を書きました。かつて、私の作品を愛してくださった方々に、いまも「元気ですか?」と話しかけたくて。

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コメント

こんにちは またお邪魔します^^

もしかしたらですけど、この“彼”って、いつも楽しい長文カキコのあの方だったんでょうか?
私も久々こちらにお邪魔して書くのもなんなんですけど、藤さまの作品のファンはそう簡単には離れはしないと思います。
楽しい想像のままでいいのではないのでしょうか。。。

しかし、私ってばキリ番踏んでは戴いてばっかでしたね^^; 
サイン本大事にとってありますよ~!

瑠璃さん、ありがとう。
彼のことは家族も気にしていて、ときどき話題になるのですよ。でも結局、連絡はできません。想像のままで、いいでしょうかね。

ネットを通じて、この7年間くらい、本当にいろいろな出逢いがありました。1人、外国でテロがあった頃にふっつりと消息を絶ってしまった人がいました。住所も知っていましたが、手紙にも返事はなく、オフ会で飲み明かした頃を思い出しながら、元気でいるなら、忙しくしてるよー、って一言だけでもくれたら、と思い出します。

闘病中の人に、かける言葉って本当に難しいですよね。女医をしている友人が言ってましたが、
「治る病気の人は、見舞いも自分できてくれって呼ぶ、ガンバレっていわれて、がんばれるから。
でも、手の施しようのない病気の人は、家族すら、遠ざける。恋人に「嫌いになった」とウソをついて別れる人も珍しくない。『今日は気分はどう?』くらいしか家族もかける言葉がない」と。

安易な言葉をすぐにかけられなかったことが、
水名子さんの真摯な誠意だと私は思います。
それがその方に伝わっていると思います。

元気で「たまには本を読みたいもんだよなぁ」とボヤきつつ活躍していることを信じていたいですね・・・。

いつか、時間が消化してくれる頃、水名子さんの物語に、その方をモデルにした素敵な方が登場することもあるかもしれないですね。
元気でいるなら照れながら読んでくれる日もあるかもしれない。もしそうでなくてもきっと喜んでくれることでしょう。

その方は、世界のどこにいても、水名子さんがご自分を責めることを望んでおられないと思います。

ルーさん、ありがとう。
私は、自分も長期入院の経験があり、病気の人の気持ちはある程度理解できるつもりでしたが、このときばかりは絶句するしかありませんでしたね。
そういえば私自身、忙しいことを理由に連絡をとらなくなった人も多いですし。

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